こんにちは!
カズ社会保険労務士事務所 代表の佐久間です。
数年前に働き方改革と称して様々な法律の改正がなされましたが、皆様覚えていらっしゃいますか?
コロナ禍もあり、この約1年間は報道等も含めてその存在感が少し薄れている感もありますが、働き方改革に関する各種法律はその後順次施行されている状況です。
2021年4月からは、いわゆる同一労働同一賃金に関する法規制が中小企業にも適用されます。(大企業は昨年、2020年4月から既に施行されています。)
今回は働き方改革の中でも、企業の労務管理において特に重要な労働時間の把握に関する部分について、おさらいの意味も込めて改めてご紹介したいと思います。
労働時間の把握が法律上の義務に
労働時間の把握について、2019年3月以前まではそれ自体を直接的に規定する法律はありませんでした。
これは意外に思われるかもしれませんが、労働時間の把握については、それまで通達(その後、ガイドラインに改正)として示されているのみでした。
そうした状況の中、働き方改革の流れの中で法改正が行われ、2019年4月から労働時間の把握が企業にとって法律上の義務となりました。
法律上の義務ということですが、具体的に企業はどのように労働者の労働時間を把握・管理する必要があるのでしょうか?
厳格にルール化された労働時間の把握
原則としてタイムカードやPCのログイン・ログオフの記録、管理監督者等による現認など客観的な記録により労働時間の状況を把握しなければならない、とされています。
つまり、任意に書き換えたりすることができない方法によって、労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻など、労働者が労働し得る状態である時間を把握することが必要となります。
やむを得ず、こうした客観的な記録による労働時間の把握が難しい場合には、労働者の自己申告により把握することも例外的に許容されますが、その場合には、以下のような措置(以下は必要な措置の一部)を全て講じることが必要とされています。
・実態調査を行うことにより、自己申告により把握した労働時間と実際の労働時間に乖離がないか適宜確認し、乖離がある場合には労働時間の補正を行うこと
・労働者のみならず管理監督者等の管理側の者に対して自己申告制の正しい運用を十分に説明すること
・適正な自己申告を阻害する運用(社内で自己申告できる労働時間に上限を設ける、残業時間を申告させない風土・環境となっている、など)が発生していないかなどを確認し、必要な場合には改善すること など
実情として、労働者の自己申告によって労働時間の把握をされている会社様は少なくないと思いますが、その場合には上記のような措置も合わせて運用していくことが求められます。
このように労働時間の把握について、原則は客観的な記録によることが求められており、例外的に自己申告が許容される場合でも適正な労働時間の把握がなされるよう幾つかの措置を合わせて講ずることが必要となります。
自己申告に関する留意点
なお、労働者の自己申告による労働時間の把握は例外的な方法として位置付けられていることは既にご紹介した通りですが、それが認められるのはタイムカードやPCのログイン・ログオフの記録、管理監督者等による現認などのような客観的に労働時間を把握する手段がない、または取り得ない場合とされます。
例えば、会社外での直行直帰の業務の場合でも、社内システムへのアクセスが可能で労働時間を把握できる状況・状態であれば、自己申告による把握は認められません。
今や、個々の労働者が会社から貸与されたモバイルPCやタブレット、スマートフォンを携帯しながら会社外で社内システムにアクセスしながら業務を行うことは一般的と言っても過言ではありません。場所を問わないやり取り・アクセスが可能となった現代において、例外的な方法である自己申告が認められる状況はそこまで多くないと思われ、留意が必要です。
基本的に全ての労働者が対象
この労働時間の把握に関するルールは、管理監督者や裁量労働制の適用者なども含め、全ての労働者(高度プロフェショナル制度の対象者は除く)に適用されるものとなっています。
実労働時間に基づく割増賃金支払いの対象ではない、管理監督者や裁量労働制の適用者も含めてこのルールが適用されるという点は見落とされがちではあります。
法律の施行から2年が経とうとしている今でも、実際にご相談頂く中でこの点が漏れているケースは少なくありません。
労働時間把握の趣旨・目的に立ち返る
労働時間の把握に関するこのルールは、労働基準法ではなく、労働安全衛生法に定められています。
労働基準法に定めのある時間外労働の上限規制をはじめとした労働時間に関するルールや割増賃金に関するルールに関連して定められたものではなく、
労働者の健康管理を強化すること、労働者の健康リスクを見逃さないための措置(医師による面接指導)を講ずることなどを目的として、安全衛生の面から定められているものです。
こうした立法の趣旨を踏まえれば、厳格にルール化されたことや管理監督者等を含めてこのルールが適用されることの意味がご理解頂けるかと思います。
いかがでしょうか?
法律が求めるルールを実際に社内で落とし込んでいく中では、様々な支障が出てくるものです。
既に対応をされている会社様も、未対応の会社様も、労働時間の把握に関するルールを改めてご確認頂き、正しい労働時間の把握の実施・運用の改善を進めて頂けたらと思います。